退職金・企業年金・iDeCoは“受け取り方”で差が出る|一時金/年金の考え方
一言で言うと:退職金・企業年金・iDeCoは「いくらあるか」だけじゃなく、“どう受け取るか(いつ・何で・どの形で)”で、手取りと安心感が変わります。
老後の収入づくりは、年金だけでなく「退職金」「企業年金」「iDeCo(個人型確定拠出年金)」も大きな柱。
でもここで落とし穴になりやすいのが、受け取り方法(①一時金でドン、②年金で分割、③ミックス)です。
この記事で得られること・老後にどう関わる?
- 一時金と年金(分割)で、税金の扱いがどう変わるかがわかる
- 退職金・企業年金・iDeCoの「受け取り方の基本ルール」が整理できる
- よくある失敗(申告書出し忘れ/同じ年にまとめて受け取る など)を避けられる
- 老後の収入を長持ちさせる“受け取り設計”の考え方が手に入る
老後の収入は「入ってくる金額」だけでなく、税金・社会保険・生活費の波まで含めて設計すると安定します。
関連:老後の収入の全体像はこちら(4本柱)
老後の収入を“設計”する|年金+働く+資産+給付の4本柱
0. まず結論|受け取り方で「差が出る」3つの理由
理由①:税金の種類が変わる
- 一時金:主に「退職所得」扱い(退職所得控除など優遇がある)
- 年金(分割):主に「雑所得(公的年金等)」扱い(公的年金等控除の枠の中で計算)
理由②:「同じ年」に受け取ると控除や所得がぶつかることがある
退職金+企業年金+iDeCoを同じ年にまとめると、控除の使い方や税額計算が複雑になりやすいです(後述)。
理由③:お金の“寿命”が変わる
- 一時金は自由度が高い反面、使いすぎリスクがある
- 年金は毎月の入金が続き、長生きリスクに強い
1. 退職金(退職一時金)の基本|税制は優遇されやすい
1-1. 退職金は「退職所得」=分離課税が基本
退職金は原則として他の所得と分けて税額を計算します(退職所得)。
1-2. 退職所得控除の計算(ここが超重要)
退職所得控除額は、国税庁の案内で次のように整理されています。
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(※最低80万円)
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
参考(国税庁):No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
1-3. 「2分の1」で課税される(ざっくり手取りに効く)
退職所得は、概ね(退職金 − 退職所得控除)× 1/2のイメージで計算されます(一定の例外あり)。
同じく参考:国税庁 No.1420
1-4. 具体例(イメージ)
例:勤続30年で退職金2,000万円の場合
- 退職所得控除:800万円+70万円×10年=1,500万円
- 課税対象の目安:(2,000万円−1,500万円)×1/2=250万円
ポイント:退職金は税制上“かなり優遇されやすい”ので、受け取り設計の中心になりやすいです。
2. 企業年金(退職年金)の基本|「年金か一時金か」で扱いが変わる
企業年金には会社の制度として、確定給付企業年金(DB)や企業型DCなどがあります(会社により違います)。
2-1. 年金で受け取る:公的年金等(雑所得)として扱われることがある
国税庁は、過去の勤務により会社などから支払われる年金や確定給付企業年金などが「公的年金等」に該当し、雑所得として計算されると整理しています。
2-2. 一時金で受け取る:みなし退職手当等 → 退職所得
確定給付企業年金などで、退職に伴い一時金として給付されるものは、退職所得として課税される扱いが示されています。
ここが分かれ道:企業年金は「年金で受け取るか」「一時金で受け取るか」で、税の入口が変わります。
3. iDeCo(個人型DC)の基本|受け取りは3パターン
3-1. 受け取り方は3種類
- 一時金(老齢一時金)
- 年金(老齢年金):有期年金(5年以上20年以下)など
- 一時金+年金の組み合わせ(取り扱いは金融機関により)
参考(iDeCo公式):iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等
3-2. 何歳から受け取れる?(知らないと損する)
- 原則60歳から受け取り可能
- ただし「60歳で受け取る」には通算加入者等期間が10年以上など条件あり
- 受給開始は75歳までの間で選択可能/75歳までに請求が必要
参考(iDeCo公式):iDeCo手続き関連|受給開始年齢等
制度改正の背景(厚労省):2020年の制度改正(DCの受給開始上限70→75歳など)
4. “一時金”と“年金”どっちが得?|判断軸を5つに絞る
判断軸①:退職所得控除を活かせるか(退職金・一時金の強み)
退職金・企業年金の一時金・iDeCo一時金は、退職所得として整理されることがあります。退職所得控除の枠をどれだけ使えるかが差になります。
参考:国税庁(退職所得)No.1420
判断軸②:年金側は「公的年金等控除」の枠を食い合うか
公的年金(国民年金・厚生年金)に加えて、企業年金や(制度により)iDeCo年金を重ねると、雑所得として合算されるため、税負担が想像より増えることがあります。
参考:国税庁(公的年金等)No.1600
判断軸③:同じ年にまとめて受け取る?年をずらす?
同一年に複数の退職金等を受け取る場合など、計算が変わるケースがあります。
参考:国税庁(留意点あり)No.1420/国税庁(複数支給)No.2735
判断軸④:生活費の“毎月の穴”を埋めたいか
- 老後は、医療・介護・住宅修繕などで月の支出がブレやすい
- 年金型は「毎月の補助輪」になりやすい
判断軸⑤:使い切りリスク vs 長生きリスク
- 一時金:自由だけど、計画なしだと溶ける
- 年金:使い切りにくいが、途中で大きな出費が来ると弱い
- だから最近はミックス(必要額だけ一時金+残り年金)が現実的
5. これだけは避けたい!老後で効く「3大やらかし」
やらかし①:退職所得申告書を出し忘れて20.42%源泉徴収
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、退職手当等に20.42%の税率で源泉徴収される扱いが示されています(確定申告で精算することになります)。
参考:国税庁(手続案内)A2-29 退職所得の受給に関する申告/国税庁(源泉徴収)No.2732
やらかし②:「なんとなく年金」で受けたら、他の年金と合算で税が増えた
企業年金やiDeCo年金を足すと、雑所得として合算になる場合があり、思ったより課税対象が増えることがあります(個別事情で変わります)。
やらかし③:一時金で受けたのに、使い道が決まっておらず消えた
退職金は「人生最大の一括入金」になりやすい。使い道(生活防衛費・住宅・医療介護・投資の上限)を先に決めておくのが安全です。
6. 迷ったらこの順番|“受け取り設計”のチェックリスト
- □ 退職金:概算額/勤続年数/支給時期
- □ 企業年金:一時金と年金の選択可否/見込み額
- □ iDeCo:受給可能年齢/一時金・年金・併用の可否(金融機関ルール)
- □ 公的年金:ねんきん定期便・ねんきんネットで将来額を把握
- □ 退職後の収入:再雇用・副業・家賃収入などがあるか
- □ 受け取りの“今年/来年”を分ける余地があるか
関連:将来年金額の見える化(ねんきん定期便・ねんきんネット)
ねんきん定期便・ねんきんネットで「将来の年金額」を見える化する方法
7. まとめ|“受け取り方”は老後の手取りと安心を左右する
- 退職金(一時金)は、退職所得控除など優遇を受けやすい
- 企業年金・iDeCoは、年金か一時金かで税の扱いが変わる
- 「同じ年にまとめる/年をずらす」「一時金/年金/ミックス」を比較すると、老後の収入が安定しやすい
- まずは金額を見える化→ルール確認→必要なら専門家相談、が安全
参考資料・リンク
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
- 国税庁 No.5231 確定給付企業年金等に係る課税関係
- 国税庁 A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)
- 国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
- iDeCo公式:加入資格・掛金・受取方法等
- iDeCo公式:受給開始年齢等
- 厚生労働省:2020年の制度改正(DCの上限年齢など)
免責事項
本記事は、公的機関等の公開情報をもとに作成した一般的な解説です。特定の商品・金融機関・運用方法を推奨するものではありません。 税金・年金・退職金・企業年金・iDeCoの取り扱いは、加入状況・受取方法・他の所得・制度改正等により変わります。 実際の手続きや税額計算は、国税庁・年金制度の公式情報を確認のうえ、必要に応じて税理士・社労士・FP・勤務先の担当窓口等にご相談ください。
更新履歴
- 初版公開:2025年12月5日
