高年齢雇用継続給付|60歳以降の賃金ダウンを補う条件と注意点
「60歳以降も働くつもりだけど、再雇用で給料が下がるのが怖い…」
その“60代前半の収入の落ち込み”を補う代表的な制度が、雇用保険の高年齢雇用継続給付です。
一言で言うと:
60歳前と比べて賃金が25%以上下がった人に、賃金の一部(上限あり)を雇用保険が上乗せしてくれる制度です。
この記事でわかること・老後にどう関わる?
- 高年齢雇用継続給付のしくみ(2種類ある)
- もらえる条件(5つ)を“迷わない”形で整理
- いくら増える?支給率の考え方(2025年の制度変更も反映)
- 「もらえない月」が発生する落とし穴
- 年金(在職老齢年金)と一緒にもらうときの注意点
老後の収入は「年金だけ」では足りない不安が出やすい時代。
この制度は、60〜64歳の“つなぎ期間”を安定させるために知っておく価値が高いです。
1. 高年齢雇用継続給付とは?(まず全体像)
高年齢雇用継続給付には、主に次の2つがあります。
① 高年齢雇用継続基本給付金(いちばん使われる)
60歳以降も同じ会社などで働き続け、賃金が下がった人を支える給付です。
② 高年齢再就職給付金(失業給付のあとに再就職した人向け)
基本手当(いわゆる失業給付)を受給した後に、60歳以後に再就職し、賃金が一定条件を満たして下がった人を支える給付です。
公式:厚生労働省|Q&A~高年齢雇用継続給付~
公式:ハローワーク|雇用継続給付
2. もらえる条件(結論:この5つが全て)
厚生労働省の整理では、支給対象月(“その月まるごと被保険者だった月”)ごとに、次の要件を満たすと対象になります。
- ① その月の初日〜末日まで雇用保険の被保険者である(=月途中の入社/退職は要注意)
- ② 支給対象月の賃金が、60歳到達時等の賃金月額の75%未満に低下している
- ③ 支給対象月の賃金が支給限度額未満である
- ④ 計算した給付額が最低限度額を超える(小さすぎると支給されない)
- ⑤ その月の全期間、育児休業給付または介護休業給付の対象となっていない
3. いくら補われる?(支給率のイメージ)
支給額は「賃金 × 支給率(上限あり)」で決まります。
そして2025年に、上限支給率が見直しされました。
3-1. 2025年4月1日から“支給率の上限”が変わった
- 60歳到達日(または5年要件を満たした日)が2025年3月31日以前:上限15%
- 2025年4月1日以降:上限10%
3-2. “どれくらい下がったら最大?”の目安
ハローワークの説明では(2025年4月以降の新しい支給率の場合)、
- 賃金が60歳時点の64%以下まで下がる → 賃金の10%相当(上限)
- 賃金が64%超〜75%未満 → 低下率に応じて10%未満
※旧制度(上限15%の人)は、目安の境目が「61%」になります(詳しくはハローワーク記載)。
4. 2025年8月1日改定:限度額と“支給されないライン”
高年齢雇用継続給付には、毎年8月1日に見直される「限度額」があります。
2025年8月1日以後の支給対象期間からは、例えば次のように定められています。
- 支給限度額:386,922円(この月賃金がこれ以上だと原則支給なし)
- 最低限度額:2,411円(計算した給付額がこれ以下だと支給されない)
- 60歳到達時等の賃金月額 上限/下限:上限 508,200円 / 下限 90,420円
根拠(PDF):厚生労働省|令和7年8月1日から支給限度額が変更
5. いちばん大事な注意点(トラブル防止)
注意点①:月途中の入社・退職・休職で「その月が対象外」になりやすい
支給対象月は「その月の初日から末日まで被保険者である月」に限られます。
つまり、月途中で条件が切れると“その月は支給ゼロ”の可能性があるので要注意です。
注意点②:年金(在職老齢年金)と一緒にもらうと年金が止まることがある
厚生年金に加入しながら年金を受け取っている人が高年齢雇用継続給付を受ける場合、
在職による支給停止に加えて、さらに年金の一部が停止(最大で標準報酬月額の4%)される仕組みがあります。
根拠(日本年金機構PDF):在職老齢年金の支給停止の仕組み(高年齢雇用継続給付との関係)
注意点③:「自動で振り込まれる」ではない(申請が必要)
原則として2か月に一度、申請書の提出が必要です。
初回申請には期限(最初の支給対象月の初日から起算して4か月以内など)もあるため、会社(または本人)で手続きを確認しましょう。
6. 老後の収入設計での“使いどころ”
- 60〜64歳の賃金ダウンを緩和して家計を守れる
- 年金の受給開始(65歳)までの“谷”を埋める
- 年金と働き方の組み合わせを考えるときの重要ピースになる
老後の収入は「年金+働く+資産+給付」で設計する時代。
この給付は、その中の“給付で底上げ”を担う制度です。
7. 契約前(または再雇用前)に見るチェックリスト
- □ 60歳前(基準)と比べて賃金が75%未満になりそうか?
- □ 月途中の雇用条件変更で「対象外月」が出ない設計か?
- □ 賃金が支給限度額を超えないか?(超えると不支給)
- □ 年金と併用する予定なら、停止の影響を把握しているか?
- □ 申請を会社がやるのか、本人がやるのか決めたか?
この記事のポイント(まとめ)
- 高年齢雇用継続給付は、60〜64歳の賃金ダウンを補う雇用保険の制度
- 条件は「賃金75%未満」「支給限度額未満」「最低限度額超」「支給対象月(丸々被保険者)」「他給付の対象外」など
- 2025年4月1日から上限支給率が変更(対象者により上限10%/15%)
- 年金と併用すると、年金の一部停止が起こる場合があるので注意
参考資料・リンク(公式)
- 厚生労働省|Q&A~高年齢雇用継続給付~
- ハローワーク|雇用継続給付(支給額・手続き)
- 厚生労働省|令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更
- 厚生労働省|令和7年8月1日から支給限度額が変更(PDF)
- 日本年金機構|在職老齢年金の支給停止の仕組み(高年齢雇用継続給付との関係)
免責事項
本記事は、公的機関の公開情報をもとにした一般的な解説であり、特定の働き方・雇用契約・受給を保証するものではありません。制度の適用可否・金額・手続きは個別事情で変わります。必ず最新情報をハローワークや勤務先、年金事務所等でご確認ください。
更新履歴
- 初版公開:2025年12月7日
