在職老齢年金制度|働くと年金が減る?「支給停止」の条件を一発で整理
一言で言うと:「働くと年金が減る」は半分ホント。減る(支給停止)可能性があるのは主に“老齢厚生年金”で、給与(賞与込み)+老齢厚生年金(月額)が一定額(2025年度=51万円)を超えた分の半分が止まる仕組みです。
「せっかく年金をもらい始めたのに、働いたら損するの?」
この不安の正体が在職老齢年金(ざいしょくろうれいねんきん)。でも、仕組みを1回理解すると、実はチェックはシンプルです。
この記事で得られること・老後にどう関わる?
- 支給停止(減額)になる条件を「一発」で判断できるようになる
- どの年金が止まるのか(止まらないのか)がわかる
- 給与・賞与・年金をどう組み合わせると損しにくいかの考え方がわかる
老後の収入は「年金だけ」ではなく、働く収入とセットで考える人が増えています。だからこそ、在職老齢年金を理解すると、老後の収入設計がグッと現実的になります。
関連(シリーズの全体像):
老後の収入を“設計”する|年金+働く+資産+給付の4本柱
0. まず結論|支給停止の条件は「この式」だけ覚えればOK
支給停止(=老齢厚生年金が止まる)判定はこれ:
- 基本月額(老齢厚生年金の月額)+総報酬月額相当額(給与+賞与の月割り)
- この合計が51万円(令和7年度=2025年度の支給停止調整額)を超えるかどうか
根拠(日本年金機構:計算式と「令和7年度の支給停止調整額=51万円」):
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
1. 「働くと年金が減る?」の答え:止まるのは主に“老齢厚生年金”
在職老齢年金で支給停止の対象になるのは、原則として老齢厚生年金です。老齢基礎年金(国民年金部分)は支給停止の対象ではありません。
根拠(日本年金機構:老齢基礎年金は全額支給、などの留意事項):
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
(あわせて図解PDF:日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み(PDF)」)
2. 「支給停止」を一発で整理|チェックは4ステップ
STEP1:あなたは対象?(ざっくり)
原則、60歳以上で老齢厚生年金を受けながら働いている人が対象です(制度の位置づけ)。
根拠(厚労省:制度の定義):
厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方(在職老齢年金・在職定時改定)」
STEP2:2つの数字を用意する
(A) 基本月額:老齢厚生年金の月額(※加給年金など扱いに注意)
(B) 総報酬月額相当額:給与の月額+賞与(標準賞与額)の月割り
根拠(定義と考え方):
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
厚生労働省「在職老齢年金・在職定時改定」
STEP3:合計が「51万円(2025年度)」を超えるか判定
- (A)+(B) ≤ 51万円 → 支給停止なし(老齢厚生年金は全額支給)
- (A)+(B) > 51万円 → 超えた分の1/2が支給停止
根拠(計算式):
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
STEP4:支給停止額を計算(超シンプル)
支給停止額(月)=((A)+(B)−51万円)÷2
支給される老齢厚生年金(月)=A − 支給停止額
なお、計算結果がマイナスになる場合は老齢厚生年金が全額支給停止になるケースがあります(基礎年金は対象外)。
根拠(留意事項):
日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
3. 具体例(これでイメージが固まる)
例1:ちょい超え(少しだけ止まる)
- 基本月額A:10万円
- 総報酬月額相当額B:44万円
- A+B=54万円 → 51万円を3万円超え
- 支給停止=3万円÷2=1.5万円
- 老齢厚生年金の支給=10万円−1.5万円=8.5万円
※数値例の考え方は、日本年金機構の図解(PDF)でも確認できます:
日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み(PDF)」
例2:かなり超え(厚生年金部分がゼロになる可能性)
給与が高く、A+Bが大きく超えると、老齢厚生年金が全部止まるラインに達することがあります。
(ただし老齢基礎年金は止まりません)
4. よくある勘違い3つ(ここが“損した気分”の原因)
勘違い①:年金が丸ごとゼロになる
多くの人が誤解しがちですが、在職老齢年金の支給停止は主に老齢厚生年金が対象。老齢基礎年金は対象外です。
根拠:日本年金機構(PDF)
勘違い②:一度減ったら一生そのまま
支給停止は、給与(や賞与の月割り)が高い期間に起きます。
給与が下がる/働き方が変わる/退職するなどで支給停止が変わることがあります。
根拠(支給停止期間の考え方):日本年金機構
勘違い③:70歳を超えたら関係ない
70歳以上は厚生年金の被保険者ではないため保険料負担はない一方で、在職老齢年金の考え方自体は「働きながら年金を受ける」場面で論点になります。
根拠(70歳以上の扱い):日本年金機構
5. “働いて損しにくくする”考え方(攻めと守り)
5-1. 攻め:在職定時改定で「働いた分」が年金に反映される
65歳以上70歳未満で厚生年金に加入して働いている場合、働いた分の加入期間が毎年10月に年金額へ反映される仕組み(在職定時改定)があります。
根拠:日本年金機構「令和4年4月から年金制度が改正されました(在職定時改定)」
詳細PDF:在職定時改定(PDF)
5-2. 守り:支給停止調整額は毎年変わる(最新版確認が必須)
支給停止調整額は年度で変わります。例えば日本年金機構の資料では、2024年度は50万円、2025年度は51万円と示されています。
根拠:日本年金機構(PDF)
5-3. 補足:今後の見直しが議論されることもある
在職老齢年金の基準額引き上げ等は、政策として見直し議論が行われることがあります。最新動向は公的情報で確認しましょう。
参考(厚労省):在職老齢年金制度の見直しについて
6. 今日やること(最短ルート)
- ① ねんきん定期便/ねんきんネットで老齢厚生年金(月額)の見込みを把握
- ② 給与明細と賞与(直近1年)を見て総報酬月額相当額を概算
- ③ この記事の式で51万円を超えるかチェック
関連:将来の年金額を見える化(ねんきん定期便・ねんきんネット)
ねんきん定期便・ねんきんネットで「将来の年金額」を見える化する方法
参考資料・リンク
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み(PDF)」
- 厚生労働省「在職老齢年金・在職定時改定」
- 日本年金機構「令和4年4月から年金制度が改正されました(在職定時改定)」
- 厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」
免責事項
本記事は、公的機関の公開情報をもとに作成した一般的な解説であり、個別の受給可否・税額・最適な働き方を断定するものではありません。年金の支給停止判定や年金額は、加入歴・年齢・標準報酬・賞与・受給している年金の種類などにより異なります。具体的には日本年金機構の情報を確認し、必要に応じて年金事務所等へご相談ください。
更新履歴
- 初版公開:2025年12月7日
